京都市左京区『杉皮塀のある町家』改修 VOL.1
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今回は出町柳、「杉皮塀のある町家」へご案内いたしましょう。
お客様の祖父母様の世代にご購入されたというお話でしたので、
築年は不詳ながら、おそらくは大正〜昭和初期ごろでしょうか。
しっくい壁に傷みは見られるものの、繊細な彫刻や美しい建具など、
すみずみまで洗練された上品な雰囲気です。
ところが、お隣りの家の解体が決まり、工事の際に、
片側の塀(へい)も無くなってしまいました。
そのため、新たに独立の塀の造作を希望されておりまして、
まず、ひどく傷んだ既存の門扉と塀を修復する運びと
なったのです。
「祖父母の代から続く杉皮張りの塀のたたずまいを
活かした、この家にふさわしい塀を造りたい」
「通路に以前あった懐かしい照明器具を復活させたい」
それが、お施主様…この家を受け継ぐ若いご夫婦のご希望です。
保管されていた古い照明器具は、さびてはいるものの
和製アンティーク独特の美しさは失われていません。
シンプルながら、手づくりの曲線の優雅さに癒されそうです。
職人がさびを落とし、通路の幅にたりない部分には新しくあつらえた
アイアン細工の足を溶接、再生の準備を進めます。
この作業と同時進行で、設計担当者ら2名が、京都市内の
塀という塀を2日間見て歩き、修復プランを練り上げました。
杉皮塀の古き良き、美しいデザインとはいったい何なのか、
本質を探り、得た結論がこちらです。
このたびのリフォームによって、
無くなっていた塀が新たに新設され、歌舞伎門の腐った箇所
は新材に差し替えられ、通用口建具はもともと使われていた
扉を利用して修復・補強されました。
リフォーム後の姿をご確認ください!
門の格子扉は、磨かれ、戸車で動きが軽くスムーズになりました。
傷みかけていた木製敷居は、モルタル+小石の洗い出しに
変わり、水や虫にも負けません。
総仕上げは、門扉と塀全体に塗られた防腐剤入りの浸透性塗料です。
日ざしや風雨に長年さらされ、乾燥していたせいでしょうか?
塗料製造元に指定されている必要量の2倍の量、
なんと2リットルもの吸い込みがありました。
新設した塀は、日影側にあるため水はけを考えて杉皮が短めにされ、
足元には石(京都の山石)を敷きつめた溝が掘られました。
山石の下は地面なので樹木や花を自由に植えることができますし、
白いしっくい壁と杉皮の渋く暗い色彩の対比により明暗が生まれます。
単なる通路としてではなく庭としてご覧いただくための演出です。
デザイン性を高めるため、杉皮としっくい部分の幅のバランスに
最後までこだわりました。
塀のてっぺんには、設計者が意地で探し出した、通常のルートでは
販売されていない珍しいスタイルとサイズの瓦が使われています。
水道栓はこの溝の脇に移設され、小さなお子様も気軽に足を
洗えますし、真夏は通路に打ち水をすれば涼しくなります。
蛇口は、レトロ感に合うデザインを選んだものです。
こうして、門扉と杉皮の塀が完成いたしました。
門扉を開けば、昼は青空に浮かんだ照明のアーチが、
夜は、照明のやわらかな光が出迎えてくれることでしょう。
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おつきあいいただき、ありがとうございました。
…次回は、家のリフォームについてお届けいたします。
設計担当者が奮闘しております、ご期待ください。
Blogged by 小川 還
2013年4月7日 8:15 PM | カテゴリー:杉皮塀のある町家 VOL.1 | コメント(0)