『 最近の記事 』

京都市左京区『杉皮塀のある町家』改修 VOL.2

【写真をクリックすると、大きく見やすくなります】

 

目にも鮮やかな緑の季節です。

 

堀川通りより見た御所

 

「杉皮塀のある町家」へやってまいりました。

前回ご報告した、杉皮塀のリフォーム完了後の、続報です。

(※初回ブログはコチラ→ VOL.1

 

(after)玄関前より杉皮塀、歌舞伎門

 

ついに家本体のリフォーム工事の準備が整いまして、

解体前日のチェックにお邪魔いたしました。

 

お施主様ご夫婦にとっては、現状での見納めです。

お子様も小さく、片付けにいらっしゃるだけで大変なのに、

気持ちのよい笑顔で迎えてくださいました。

捨てるもの、残すもの、それぞれを色テープで分別し、

取り違え無いよう邸内を念入りに確認してゆきます。

 

 

さて、リフォーム前の家の様子をどうぞ。

…端正な美宅です、リフォーム前ですけれども是非ご覧ください。

 

お施主様のお祖父様が購入されてすぐ増改築され、

次に、ご両親の時代に水回りや空調の改築があったようです。

今回は、全体のリフォームとなります。

 

(before)正面から見た7面の屋根

 

こちらのお屋敷の特徴は、

2つの玄関と過去の増築で複雑になった屋根です。

解体してみるまで構造がわからず、気は抜けません。

 

(保存箇所)来客専用玄関

 

玄関のうち1つは、お客様専用の格式高い玄関。

 

(保存箇所)踏み石と障子

 

足を踏み出すと、気が引き締まります。

 

(before)家族用玄関

 

もう1つは、家族の玄関。

 

(before)門前から続く、趣き深い石畳

 

普段の勝手口でもあり、つい入ってみたくなる雰囲気です。

…お邪魔いたします。

 

(before)邸内と上がり框(あがりかまち)

 

上がり框(あがりかまち)から先は意外にも、現代的な空間でした。

 

(※上がり框/あがりかまち=土間から床へ上がるための一段高い板段。

視線が集まるため、良質な木目の美しい木材で製作される)

 

(before)上がり框の対面側

 

上がり框(あがりかまち)より振り返れば、昔の屋根としっくい壁が

あり、現代と過去のちょうど境目にいる心持ちです。

 

少しスピードをあげて、改築予定部分をご案内しましょう。

 

(before)現代風のダイニングキッチン

 

明るい木目調のフローリングに、システムキッチン。

水回りを使いやすくするために以前、増築された部屋です。

配置を変え、家とつり合うように古めいた仕様に変更されます。

 

(before)玄関脇の洋室

 

玄関を入ってすぐの洋室は、神戸の西洋館に似たデザインで、

壁は丸みをおび、天井へとなめらかに続いています。

壁紙・絨緞など表面の仕上げは新しいものになっていました。

木製の窓枠やお洒落なガラスは、そのまま残る予定です。

 

(before)茶の間。押入れの中には階段

 

お隣の茶の間からは、寝転べず不評だった掘りごたつが撤去され、

階段は、もっと傾斜がゆるいものと付け替えられます。

 

(before)網代(あじろ)の戸棚

 

押入れの奥は、裏手にある廊下側から使えるように浅く仕切られています。

その戸棚の戸は、檜(ひのき)の薄板を斜めに編んだ、手間のかかる高価な

「網代(あじろ)」の仕上げでした。

 

(before)来客専用の階段

 

お座敷と仏間の奥に、また階段がありました。

来客専用で現在は使われておらず、今回、撤去されます。

 

 

では、2階へまいりましょう。

1階とそっくりなお座敷と、洋間が並んでいます。

 

(before)お座敷と洋間の書斎

 

現代風に改築された洋間には、窓際の押入れを改造した

小さな書斎があり、古い机が置かれていました。

ここは、1階に場所を移し、設計担当者の指示によって再構築されます。

 

(before)2階。お座敷と洋間の欄間の比較

 

家全体で統一された形の欄間があり、洋間だけは、

エアコンで空調するためにふさがれていました。

過去に行われた改築は、どちらかと言えば、見た目より

実用本位の改造だったのでしょうか。

今回は、こういった点も解消されると聞いております。

 

(before)廊下のアンティーク照明

 

珍しいデザインに、設計担当者も思わず歓声をあげていました。

この照明は、外の杉皮塀の上に取り付けられた照明と

同じ時代の作品のように思われます。

 

(before)古い電灯のスイッチ

 

古い照明器具がある…つまり配線も古い、ということでしょうか?

新旧が入り交じったスイッチは、使いにくそうでした。

漏電による出火を防ぐために、配線までスッキリ整える必要があるようです。

 

(before)1・2階の廊下アップ

 

部屋をめぐって歩いた廊下は、昔のままの美しい木目であり、

角は寄木(よせぎ)にされ、長い1枚板を丁寧に組んであります。

表面はそのままに。

裏側には断熱材を施工して、床下からくる寒気をふせぎ、

より快適になる予定です。

 

2階の廊下からは手すりの柵がはずされ、屋根の上に

広いウッドデッキが新設されます。

 

(before)1階の廊下

 

庭の緑が目に心地よく、涼しい風が吹き抜けてゆきます。

この環境はそのまま、残されるはずです。

 

 

どんなスタイルも必ず、いつかは時代遅れになるもの。

されど、いくら古くとも、留めておきたい部分はそのままに。

…こだわりは受け継がれ、家屋に残ります。

 

家を購入したお祖父様やご両親は、その時代の最先端を集めて

自分の住まいをつくりあげられたのでしょう。

こんどはお施主様が、今の感覚でつくり変える番です。

 

弊社の設計担当者は、

目の前のお施主様のご希望をうかがいながら、

お祖父様が残された和のアンティークと対話するつもりで、

間取りはもちろん、紙・石の1つ1つまで膨大なサンプルを

取り寄せて吟味してきました。

 

古くても心には新しく感じられ、

新しくても古く懐かしい家に…。

徐々に明かされる全貌にご期待ください。

 

おつきあいいただき、ありがとうございました。

 

Blogged by 小川 還

 

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

建築こぼれ話 その3

「ピッタリ作らない、という知恵」

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

今回は、高級な網代(あじろ)戸の棚がありましたので

思わず、戸を開いて中をのぞいてみました。

 

(before)網代(あじろ)の戸棚の上部

 

最上段には、天板がありません。

また、背板も少しずらしたような納まりです。

 

試しに棚と押入れ、両側の戸を開いてみると、

強めの風が吹きぬけてゆきました。

…湿気対策だったようです!

 

押入れなど、布団からの湿気がたまりやすい所では

細かく仕切って空間を密閉しない、という昔の知恵です。

 

宮大工さんの書いた本によると、

日本の大工さんは古代から、視線がむかう部材の

美しさを大変気にかけたそうです。

逆に、見えない部分は、地震や台風での揺れや

湿気を逃がす構造に注力していました。

 

もちろんピッタリに作る技術力はあったのですが、

わざと、ピッタリ作らない部分を残したのです。

 

機会がありましたら、町家の土台の柱を見てください。

ゴツゴツした石にパッとのせただけの雑な仕上げに見えますが

適度にすきまができて、湿気がぬけます。

もし、石の上面にピッタリ合うように柱を削ると、

見た目はいいのですが、水にぬれた時に乾きません。

 

現代の押入れは、すきまが無いからカビが生えやすいそうです。

すのこを使って風の道を開けることをお奨めいたします。

 

…では、またお目にかかれますよう。

 

 

 

コメント

コメントをお寄せください。

Sorry, the comment form is closed at this time.