山手の街並みに佇む町家リノベーション 京都市東山区

京都市東山区、山手の静かな住宅街に佇む一軒の町家。
奥様が子ども時代を過ごされた築90年以上のご実家を、ご夫妻が「終の住まい」として再生したいと、ご相談いただきました。
長い年月の中で幾度か改修され、外観はかつての面影を失っていましたが、古い梁や建具には、まだ確かな魅力が残っていました。
「この家は、きっとまた美しくなる」――そう感じ、ご夫妻の想いに寄り添いながら、町家らしさと心地よさを両立させた再構成を目指しました。
思い出の詰まった家が、ご夫妻のこれからを育んでいく場所へ。その歩みをご紹介いたします。
☆工事の過程は
ブログ2023年9月25日からご覧いただけます。
※画像をクリックすると拡大表示します。
町家の顔を取り戻すファサード
サッシと物置が後付けされ、かつての面影を失っていた外観。サッシを撤去し、木製建具と格子
で再構成。落ち着いた色味に統一し、町家らしい静かな佇まいがよみがえりました。
和の表情を持つガレージへ
建物右手にあったアルミ戸の物置は撤去し、横葺きの屋根と木製門を備えたガレージに。
超小型車の駐車スペースとして再構成し、さらなる将来には居室にもできるよう、配慮した設計にしています。
さりげない個性が光る玄関
以前はごく一般的な玄関だった空間を、墨モルタルの土間とカラフルな飾りタイルで演出。
淡い色調の格天井とアンティーク風のペンダント照明が優しく迎える、記憶に残る玄関へと整えました。
未来を見据えた廊下の工夫
玄関からガレージへとつながる廊下の途中に、新たにトイレを設けました。
まだまだお若くお元気な施主様ご夫妻ですが、将来的にガレージをお部屋へと改装される可能性を見据えてご提案したひと工夫です。
将来の生活スタイルに柔軟に対応できる備えのひとつとなりました。
静かな品格が漂う座敷へ
かつては印象の薄かった和室に、丁寧に手入れを施したアンティークの引き戸と、京唐紙の襖をあつらえました。
建具は、建築当時の雰囲気に寄り添いながらも、きしみやゆがみを整え、滑らかに開け閉めできるよう調整。
襖の唐紙には、職人の手による繊細な文様が浮かび、やわらかな手触りとほのかな光沢が、空間に静かな気品を添えています。
光と風が通うダイニング
本来の町家には、両サイドに窓がありません。
このお宅も庭に面した窓しかなく、また庭の向こう側にも部屋があったため、室内が暗くなっていました。
庭に面する開口を広げ、採光と通風を確保。視線が遠くへ抜け、光と風が巡り、広々と開放感のあるダイニングに姿を変えました。
暮らしに寄り添うキッチン
時を経て少々古びていたキッチンは、現代の暮らしに合った設備とレイアウトへ。
日々の家事を支える、機能的で美しい空間となりました。
光を取り戻した吹き抜け(火袋)
改装前、天井の奥にわずかに残っていた高窓の痕跡。それは、かつてこの町家に「火袋」があった名残でした。
閉ざされていた天井を開き、元の構造を活かして火袋を復元。高窓から光が差し込み、心地よい吹き抜けに生まれ変わりました。
庭を眺めるくつろぎの時間
少し暗めだった脱衣所と浴室は、明るい光が差し込む空間へ。
浴室の窓はできるだけ低く設置することで庭を望める設計に。
湯に浸かりながら四季の移ろいを楽しめる、癒しの時間が生まれました。
吟優舎では、庭を囲むように居間、浴室、洗面室、お手洗いを配置し、光と風を取り込むプランをご提案しています。
やわらかな風景をつくる庭
離れを解体して奥行きを生み出したことで、庭全体がのびやかな景色に。
奥には物干し場を設け、紅梅の枝垂れ梅やミヤコワスレなどの植栽が、風情ある表情を添えています。
吟優舎の造園は、植栽はもちろん、灯籠や蹲(つくばい)、手水鉢、石に至るまで、すべて自らの目で選び抜いた素材を使用。
設計から施工まで一貫して手がけ、熟練の造園職人とともに、お客様だけの庭をかたちにしていきます。
施主様の過去の思い出と、これからの暮らしをつなぐ町家。
閉ざされていた火袋に光が戻り、静かに呼吸する家へと生まれ変わりました。
季節を映す庭の緑が、日々の暮らしに彩りを添えます。
京都・東山という土地に根ざし、ご夫妻の新たな物語が、ここから静かに紡がれていきます。